コロナ禍におけるリスク・モニタリング: 地理空間分析による遠隔監視
執筆:Orbital Insight | APAC 統括責任者 兼 日本ゼネラルマネージャー Mike Kim
新型コロナウィルスの勃発以前、企業の多くは各地への出張や、国内でも対面のミーティングにより情報収集を行っていました。こうした選択肢は今やなくなり、企業はその「空白」を埋める解決策を必要としています。そして、移動ができなくなった結果、企業による各地・現場の遠隔モニタリングを実現するニーズの高まりが現在、うかがえます。
この課題に対応する選択肢のひとつに、地理空間分析を使用して資産や投資先の状態をリモートで視覚的に確認し、分析する方法があります。リスク管理の責任者(リスクリーダー)は、地理空間プラットフォーム上に企業資産をすべて設定し、関心領域を容易に監視および分析できるよう図るべきです。プラットフォームは使いやすく、データを日次で可視化でき、複数のデータセットを扱え、さらに企業が自社プラットフォーム内や API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を介してデータと「対話」できる必要があります。同時にローカルへのインストールが不要であるなど、現在、利用できる基本的な SaaS 機能も備えているべきです。プラットフォームの UI(ユーザーインターフェース)は、プラットフォーム内または E メールにより、エンドユーザーが把握するべき「データの変化」を示す「トリガー」を通知し、アラートできるものが理想的です。今日のテクノロジーの水準を鑑み、地理空間データを使用するユーザーは、これ以下のものに甘んじるべきではありません。
このようななか、様々な企業が注目するのが地理空間分析ツール Orbital Insight GO(GO)というプラットフォームです。ある大手資産運用会社のリスク部門のエグゼクティブは「ポートフォリオ・マネージャー達が投資先に出向けないため、何が起きているのかをリモートで把握できる有用なソリューションが必要です」と語っています。「リスクとコンプライアンスの観点から、目隠しされたような状態で運用はできません」。同社のアセット・マネージャーは迅速に GO を導入し、運用資産のエリア情報を読み込み、ポートフォリオ・マネージャーやアナリストたちがデータを目で確認し、意思決定に役立てられるようにしました。
さて、そこで資産や投資先の分析、および分析後に素早く結果を得ることがいかに容易かご理解いただくため、本記事用にGO でプロジェクトを作成してみました。
以下の図は、(私がかつて在住の)米ワシントン D.C. 地域の、個人の投資物件近くにある小規模なショッピングモールを対象とする GO のプロジェクトです。まず、関心のあるエリア(関心領域、AOI: Area of Interest)を青で表示することから始めます。
次に、エアバス社の衛星画像を用い、自動的に自動車の台数をカウントする「car」アルゴリズムを選択。興味のある期間(過去 6 カ月間)を定め、「実行」ボタンをクリックします。プロジェクトの作成に要した時間は 5 分。15 分後には分析結果を閲覧できました。以下が自動車の検出結果です。コンピュータービジョン・アルゴリズムを使用し、衛星画像中の自動車を認識しています。図中の紫色の点(印)は検知した自動車を表し、それぞれの点には緯度と経度の座標が関連付けられています。エアバス社のこの衛星画像では 207 台が計測されています。
図 2: 自動車を検出する複数のコンピュータービジョン・アルゴリズム
このモールが、仮に資産運用会社の投資ポートフォリオの一部であるか、プライベート・エクイティ会社が資産としてモール購入を検討中であるかする場合、こうした情報は有用です。私自身がもしポートフォリオ・マネージャー、リスク・マネージャーまたはアナリストであれば、以下の 3 種類の情報を活用したいと考えるでしょう。
1) 車両数の計測データ(図2 参照)
2) モバイル端末の人流情報(日次または一時間ごとの人流を表す)
3) 建築工事の進捗を把握できる衛星画像(以下 図 3 参照)
3 つ目については、最近の衛星画像を確認すれば、建設の進捗を分析できます。例えば、同じ小規模モールの衛星画像では、工事現場が設けられる様子、工事用クレーンの到着と配置、チックフィレイ(Chik-fil-A、米国のチキン・ファストフードのレストランチェーン)の店舗建築の進捗などを、視覚的に把握できます。
日本での GO の採用例にはメガバンクのひとつ、三井住友銀行様の法人顧客を対象とする新たな分析サービス「ジオミエール」があります。同行のプレスリリースによると GO をベースに「日本国内および海外の衛星データを用いて人々や動産・不動産の状況等(例: 特定箇所の車両数、土地・建物の状況など)、社会・経済動向の変化を『見える化』し、分析レポートとして提供する」ものです。
企業の財務部門のリーダーや最高財務責任者(CFO)の中には、消化されていない出張予算を、真に必要な「可視性」を得られるソリューションに振り向けて投資する判断を下す人も出てきています。ソリューションや会社の規模にもよるものの、企業、その各部門やチームの 1–2 カ月分の出張予算であれば、年間のサブスクリプション料は容易にまかなえるでしょう。
コロナ禍により、企業では出張が減ったり、オフィスに余剰空間が生じたりと、ある意味では予算を柔軟に振り向けることが可能になったと言えるでしょう。しかし、新型コロナウィルスは、重大な変化と予測不可能性を社会・経済にもたらしています。今日の環境下では、企業にとって可視性とデータへの迅速なアクセスこそ肝要です。
現在、リモートワーク、リモート会議など「リモート」という言葉が頻繁に使われています。さて、1950 年代に初めて使用された古い用語に「リモートセンシング」があります。一般的には衛星や航空機ベースのテクノロジーを指すものです。その約 70 年後、2021 年。世界的なパンデミックを受け、様々なセンサーや人工知能(AI)を生かし、リモートで現地や現場を自動的に分析するニーズが高まっていることは、言うまでもないでしょう。
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Orbital Insight について
Orbital Insight は地理空間分析を専門とする企業です。企業や組織のお客様が、地球上で、また地球そのものに何が起きているのかを理解できるよう、ご支援を提供しています。ユニリーバ (Unilever)、エアバス (Air Bus)、RBC キャピタルマーケッツ (RBC Capital Markets)、世界銀行 (The World Bank)、米国防総省 (U.S. Department of Defense) を始めとするお客様が Orbital Insight のセルフサービス分析プラットフォームを利用し、サプライチェーンの脆弱性やビジネス機会から国家安全に至るまで、様々な領域に関する知見を獲得されています。Orbital Insight は米国カリフォルニア州パロアルトに本拠を置き、セコイヤ (Sequoia) 、GV(旧 Google Ventures)、シェブロン (Chevron)、バンジ (Bunge) などの出資を得ています。