今なぜ、日本で「地理空間分析」が広がっているのか?
執筆: Orbital Insight | APAC セールスディレクター 兼 日本ゼネラルマネージャー マイク・キム (Mike Kim)
始めに
弊社、Orbital Insight が都内で年次イベントを開催した折、ご登壇いただいた三井住友フィナンシャルグループ (SMFG) 執行役専務/グループ CDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー)、谷崎勝教氏は「地理空間分析と AI(人工知能)は事業リスクに関し、見えない事実を可視化することができる (Make the invisible visible」と発言されました。
これぞまさに、Orbital Insight が新型コロナウィルス(COVID-19)禍において、実施していることです。弊社は「不透明な事実を可視化」し、様々な憶測が飛び交う中、透明性と信頼性を担保した、まさに必要とされる情報をご提供しています。弊社の使命は、お客様が、「地球上で、また地球そのものに何が起こっているか」を理解できるようご支援をすることです。
Orbital Insight は、衛星画像、携帯電話の位置情報、コネクテッド・カーをはじめとする IoT のデータといった多様な地理空間データソースに機械学習を適用し、データを客観的な「回答」へと変えています。サプライチェーン、世界中の商品、地政学的な事象や人口動態について、客観性のある「解」を導き出しているのです。弊社のセルフ・サービス分析プラットフォームは、企業等の組織が、従来は隠れていたトレンドを把握し、より的確な意思決定を下して国の安全をも改善することを可能にします。
日本は浸透することが難しい市場として知られていますが、幸いにも Orbital Insight は弊社のテクノロジーを多くの日本のお客様にご採用いただいています。今や Orbital Insight Japan の成功の秘訣を多くの方から尋ねられるほどです。日本オフィスを開設した 2016 年初旬からの私たちの成長の軌跡を振り返ると、この国で地理空間分析の利用が進んでいる背景には 3 つの要因があると考えています。シリコンバレーにおけるイノベーション、AI(人工知能)、そして民間の宇宙技術。弊社はこれらが「交差する」位置にあるからです。いずれも、日本における主要なトレンドです。
シリコンバレーのイノベーション
端的に言えば、日本の企業はシリコンバレーの技術を求めており、また、必要としています。「変革が必至」であり喫緊の課題だという認識は、日本企業の従業員一人ひとりにまで浸透しています。元駐日米国大使で、Geodesic Capital 社(弊社にも投資)の共同創業者であるジョン・ルース氏は、「2020 Geodesic Forum(ジオデシク・フォーラム)」閉会の辞で、「日本企業は積極的にデジタル・トランスフォメーションに取り組んでいます。その結果、デジタル変革は企業戦略の中核となるとともに、組織の文化や DNA に組み込まれつつあります……日本の企業は、デジタル変革推進の道のりにおいて、助言を得られるパートナーが必要としています」と指摘されました。「900 社を超える日本企業が米カリフォルニア州のベイエリアに拠点を設けており、最新テクノロジーの情報取得や、国際的なコラボレーションの促進を図っています」
私個人としても、日本の企業がこれほどまでに相次いで「新事業開発・同推進本部」と称する部署を設けるのを目の当たりにするのは、自身のキャリアを顧みても初めてです。こうした部署は、日本企業の「存続」をかけた、新たな収益源の特定という重要な使命を負っています。同様の名称の部署は日本企業ではあまたあり、名刺への記載もいっそう増えています。弊社でも、2019 年度の民間企業のお客様のうち、業務でご一緒いただいているのは「新事業開発」「新事業促進」「イノベーション」「デジタル」を掲げる部門の方が、88% を占めます。
AI(人工知能)
AI もまた、望まれる未来の実現に向けた、日本企業の戦略に欠かせない技術です。ルース元駐日米国大使は講演で、日本の少子高齢化とこれに伴う人手不足に言及されました。日本の未来にとって AI が重要となる所以です。日本経済が厳しい局面にあることは周知の事実です。日本が不足要因を補完し前進を図るには、大胆な「創造的な破壊」が必須だという「気づき」と認識は、ますます高まっています。中国やインドといった近隣諸国が成長を続ける中、日本は下り坂へと向かいつつあり、優秀な人材がチャンスを求めて海外に流出する懸念もあります。Orbital Insight は、4 社の日本企業から戦略的な投資をいただいています。これらの企業の数ある目標のひとつとして、AI への理解を深め、自社の AI 戦略に生かすことが挙げられます。
日本が抱える課題の本質を鑑み、問題解決に AI を生かすことは不可欠です。弊社は 2017 年から東京海上日動火災保険株式会社様と連携させていただいており、AI と衛星画像を活用した(例年、多発する台風による)洪水発生後の自動分析機能をご提供しています。日本でのかかる問題は複雑であり、特にリソースが限られる中、AI は最大限の効率化に欠かせないものです。
コンピューター・ビジョン・アルゴリズムと衛星画像を活用
宇宙と地理空間技術の豊かな歴史
宇宙関連事業は、日本で今まさに「離陸」中です。NASA と JAXA 間のコラボレーションも増えています。日本の人工衛星の数は 184 基と米国、ロシア、中国に次いで 世界 4 位。さらに、日本は「だいち 2 号(ALOS-2)」などの商用利用が可能な衛星を有し、Orbital Insight も分析に活用しました。JAXA とのコラボレーションの例にはまた、未来レストラン いぶき というプロジェクトの立ち上げがあります。地球の現状から、食の未来がどう変わり得るのか実際に体験してもらい(例:ネタのない寿司など)、気候変動への認識を高めることを狙いとするものです。レストラン名は、JAXA の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」にちなんでつけられました。
宇宙事業のみならず、日本には何十年にも及ぶ地理空間分析とリモートセンシングの、非常に豊かな歴史があります。AI を加えれば、最新の機能と従来のリモートセンシングの知識の融合に、大きな潜在的可能性が生まれます。地理空間分析を取り巻く状況を表す例として、日本の経済産業省がさくらインターネット株式会社とともに取り組んだ Tellus(テルース)プロジェクトがあります。目標に「衛星データの活用促進と同データを分析、駆使できる人材の発掘と育成」を掲げるもの。以前、世耕弘成 経済産業大臣(当時)が Orbital Insight の米カリフォルニア州パロアルト本社を訪問された際、弊社のプラットフォームが AI と衛星画像を用いて自動的に車両台数を計測するプレゼンテーションご覧に入れました。世耕大臣は、日本は頻繁に洪水が発生するため、衛星画像データで被害を受けた住宅の迅速な調査ができれば非常に有用だと述べられました。
結論
日本市場に参入したい、あるいはこのマーケットで勝負に打って出たいとお考えの皆様に私からエールを贈るとすれば、自社事業の「ストーリー」と、複数の「テーマ」が交差する領域を熟考し、見極めることをお勧めします。Orbital Insight Japan にとっては、重要なテーマは「シリコンバレー」、「AI」ならびに「宇宙/地理空間分析」でした。そこから私は、これらのテーマが日本のニーズといかに重なるかを考えました。例えば前述のとおり、日本では自然災害が国家的な問題であるという点です。
以前、Geodesic Capital 社 シニアアドバイザーでTwitter Japan 前代表取締役会長の近藤正晃ジェームス氏、弊社 CEO のジェームズ・クローフォード(博士)および私とで、都内で昼食を共にしながら会談する機会がありました。その際、近藤氏は前職の Twitter Japan会長時代の経験を共有してくださいました。
Twitter のコミュニケーション・プラットフォームが日本におけるデジタル・コミュニケーションを支える要となったのは、2011 年の東日本大震災のさなかだったとのこと。日本の人々が切実なニーズに応えたのが Twitter でした。クラウド・コンピューティングと迅速な社会的コミュニケーションの力のお陰で、日本の人々や当局は危機にあって、友人や家族の安否に関し、リアルタイムで情報を得ることができました。これについては、Bloomberg 社が「How Twitter Became Ubiquitous in Japan(Twitter はいかにして日本に浸透したか)」と題した記事を発信しています。
Orbital Insight は、新型コロナウィルス(COVID-19)をめぐり、信頼できる情報が不足する中、客観的なデータを政府、非営利団体や企業のお客様にご提供することにより、支援に努めています。皆様の「ストーリー」はどのようなものですか? 複数の主要「テーマ」の交差点は、どこにありますか? 今日の日本における主要な関心事、ニーズ、そして課題と、それらをいかに融合させることができるでしょうか?
詳しくは弊社ウェブサイトをご参照ください。
Orbital Insight について
Orbital Insight は地理空間分析を専門とする企業です。企業や組織のお客様が、地球上で、また地球そのものに何が起きているのかを理解できるよう、ご支援を提供しています。ユニリーバ (Unilever)、エアバス (Air Bus)、RBC キャピタルマーケッツ (RBC Capital Markets)、世界銀行 (The World Bank)、米国防総省 (U.S. Department of Defense) を始めとするお客様が Orbital Insight のセルフサービス分析プラットフォームを利用し、サプライチェーンの脆弱性やビジネス機会から国家安全に至るまで、様々な領域に関する知見を獲得されています。Orbital Insight は米国カリフォルニア州パロアルトに本拠を置き、セコイヤ (Sequoia) 、GV(旧 Google Ventures)、シェブロン (Chevron)、バンジ (Bunge) などの出資を得ています。