総括レポート： Orbital Insight Japan 2 月 25 日イベント「地理空間データの威力」
先の 2 月 25 日（火）、Orbital Insight Japan は年次イベント「地理空間データの威力： 多様化する情報をつなぎ、ビジネス機会に生かす」を東京都内で開催した。日本でのイベントは、今年で 2 回目。お蔭様で約 90 名の皆様にお集まりいただき、活況のうちに終了した。本記事では登壇者の皆様のご見解をかいつまんでご紹介したい。
冒頭の Orbital Insight 日本ゼネラルマネージャー、マイク・キムによる司会挨拶の後、弊社の創設者で CEO も務めるジェームズ・クローフォード博士が開会の辞を述べた。
クローフォードは Orbital Insight をご支援いただいている国内外の多数の投資会社様、お客様、パートナー様への謝意を表した後、「弊社は現在では衛星画像に加え、AIS（船舶自動識別装置）、携帯電話、自動車等からの多様なデータを Orbital Insight GO と称するプラットフォームに取り込み、AI、機械学習、深層学習とデータサイエンスを駆使してグローバルな知見を提供させていただいている」「個人の追跡ではなく、私たちの『社会』としての活動傾向を明らかにするのが目的だ」と述べた。
続いて Orbital Insight Japan ソリューションエンジニア、清水邦夫が上述の GO プラットフォームのデモを披露した後、本イベントの主眼である 2 つのセッションが始まった。
◆ファイアーサイド・チャット（対談）<組織名敬称 略>＜肩書・部署名は実施日時点＞
まずは、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG) 執行役専務、グループ CDIO（チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー）の谷崎勝教氏をお迎えし、クローフォードとの対談を行った。モデレーターは、ベンチャーキャピタル企業、Geodesic Capital のジャパン・カントリーマネージャー、尾辻マーカス氏にお願いした。
尾辻氏はクローフォードに起業までの軌跡を尋ねた。クローフォードは AI の博士号を取得後、NASAの研究所勤務を経て、Google Books プロジェクトの統括を任されたことが「特に興味深い体験」だったと述べた。まもなく安価な人工衛星打ち上げ技術の開発を受け、衛星のコンステレーションの形成実現を知ったクローフォードは、プロジェクトの経験から「衛星画像の大規模処理に AI を生かす時代が到来した」と確信。シリコンバレーで「意外にも」投資と賛同を得られ、2013 年に Orbital Insight を立ち上げたと振り返った。
弊社は現在、SMBCグループと連携させていただいているが、両社のシリコンバレーでの「出会い」は 2 年半前にさかのぼる。SMBCグループは現在、既存の金融領域に留まらない多様な事業の展開を展望している。谷崎氏も当時からデータを活用したビジネスのポテンシャルを認識しており、弊社の地理空間データが有用そうだとひらめいた、と語った。当初はあくまで内部での使用が目的だったが、現在では衛星データが SMBCグループのお客さまにも役立つのではと考え、顧客価値の向上に生かすことを模索しているという。同氏は Orbital Insight の技術が「見えない事実を可視化できる (Make the Invisible Visible)」ことの価値の大きさを認識していると語った。
谷崎氏は、SMBCグループのCDIOとして描くデジタル化戦略を問われると、Fintech に注目が集まり始めた頃から、それを超える「大きなデジタル化の波」に目を留め、攻守の戦略を策定したと語った。守りは主にデジタル化による効率化。攻めは、新テクノロジーを生む土壌が整った今、本質的なデジタル・イノベーションを追求し、既存事業でもお客さまに「従来とはまったく異なる顧客エクスペリエンス」を提供したいと述べた。また、クローフォードは、弊社の従来のビジネスモデルは小売店舗への人のトラフィックなどデータセットの販売だったと明かした。が、お客様が知りたい事実はそれぞれ固有であり、変化もするため、2019 年半ばから「プラットフォーム」として Orbital Insight GO を提供し、お客様固有のニーズに応じ分析をカスタマイズできるよう図ったと語った。
SMBCグループと弊社の今後の関係について、谷崎氏は、内部使用は当初は試行錯誤を重ねたが、今では内部のみでは「もったいない」と感じているという。SMBCグループ は金融機関としてのデジタル戦略に「情報産業化」、「プラットフォーマー化」、「ソリューションプロバイダー化」も掲げており、今後について検討していると語った。
■パネルディスカッション <組織名敬称 略>＜肩書・部署名は実施日時点＞
続くパネルディスカッションには、SMFG ITイノベーション推進部 部長代理の張笑陽氏、株式会社パスコ 衛星事業部 部長の奥泉優氏、ならびに JAXA（宇宙航空研究開発機構） 事業開発グループ 上席／J-SPARC プロデューサーの越智士郎博士を壇上にお迎えし、弊社クローフォードがモデレーターを務めた。
「地理空間技術とデータがもたらすメリット」、「地理空間データの業務への浸透を受けた組織の対応」、「自然災害におけるリスク管理等への衛星データの活用」、「5 年から 10 年後の地理空間技術の進化」と、多様な観点から活発なディスカッションが展開された。内容をかいつまんでご紹介したい。
パスコの奥泉氏は、Orbital Insight GO で情報をお客様に提供するだけでは不十分であり、お客様が持つデータと組み合わせてカスタマイズされたデータを作成することで、ソリューションとしての価値が向上すると述べた。SMFG の張氏も、災害大国・日本では、被災地域のデータに企業側のサプライチェーン・データ等の情報を加えるなど、客観的でリアルタイムな地理空間データと、企業が持つ情報の組み合わせにより、データの価値が増すと指摘。
JAXA の越智氏は、同氏の部署は新たな産業の開発が目的、と紹介。ロケット打ち上げが減り、民間の衛星会社が相次ぎ参入した結果、小型衛星によるコンステレーションがさらに形成されており、レーダーという特殊な衛星センサー技術により、地盤沈下や大規模インフラの変動観察などが可能という。同氏は、民間の宇宙関連のビジネスからの相談に応じ、JAXA の技術も提供しつつ、データを活用した新ビジネスモデルを創出したいと意気込みを語った。
地理空間データが各業界にもたらす変化について、SMFG の張氏は、既存業務の効率化を例に挙げた。同氏のチームは新技術を生かして新たなビジネスを創出する組織。データ、技術を活用して自らの知見と融合し、お客さまに新しい価値を提供できると考える。パスコの奥泉氏は宅配便をピンポイントに時間指定して配達する仕組みに触れ、バックエンドで地理空間データと AI が駆使されていると指摘。ソリューションは、技術の進化よりも、業界側のトレンドに応じ作られていくと強調した。
災害時の衛星データ活用という点では、SMFG の張氏はリスクの可視化と定量化に威力を発揮し、今後はより高い精度で状況を把握できると述べた。パスコの奥泉氏は、データ分析が自動化されていても一社単独では対応できず、人的リソースも不可欠としたうえで、企業間のパートナーシップが必須と指摘。JAXA の越智氏は、大災害の発生時に世界の宇宙機関がリモートセンシングによるデータを無償で提供する「国際災害チャーター」、アジア版の「Sentinel Asia（センチネル・アジア）」の枠組みを紹介。JAXA も参画している。参加機関が持つ情報を提供する民間ビジネスが生まれてもよいと語った。越智氏もデータ分析を一組織が単独で担うのは不可能であり、ビッグデータと AI を駆使したソリューションの構築が必要と語った。
最後に、越智氏が今後 5 年から 10 年の間に、衛星の小型化を受け、打ち上げ数は数百、数千に上ると述べ、地理空間データの活用も「いかなるデータを使用してソリューションを提供するか」という視点に立った「サービス」へと進化していくとの見解を語り、パネルディスカッションは終了した。
セッション後はレセプションを設け、ご参加の皆様、ご登壇者にご交流いただいた。皆様、グラスを片手に笑顔で歓談され、和やかな雰囲気の中、本イベントは幕を閉じた。ご参加者、ご登壇者の皆様に心から御礼申し上げたい。
イベントのハイライト・ビデオはこちらからご覧ください。
ご質問がおありの方は、sales.japan@orbitalinsight.comまでご連絡いただけますようお願いいたします。
Orbital Insight 日本語ウェブサイトも、ぜひご覧ください。
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